日本本州の西端に位置する山口県は、三方を海に囲まれた地形を持っています。
県内の山々は中国山地の一部で、標高は比較的低め。平地や盆地が少ないため、傾斜地を利用した棚田での米作や、温暖な気候を活かした柑橘類の栽培が盛んに行われています。
古くから大陸文化の影響を受けた地域でもあり、稲作技術がいち早く普及しました。江戸時代には、米や塩、紙の生産が奨励され、「防長三白」として知られる特産品となりました。
また、海岸線が長く入り組んでいることから漁業も発展し、日本海側では沖合漁業、瀬戸内海では沿岸漁業や養殖業が広がりました。特に下関市で水揚げされるフグは全国的にも有名です。
山口県の沿岸部には、古くから鯨漁が盛んだった地域が点在しています。
江戸時代から明治時代にかけては、集団捕鯨が行われ、多くの人々が鯨に支えられた暮らしを営んでいました。
鯨は、肉だけでなく油や骨粉なども無駄にせず活用されており、「一頭の鯨が村全体を潤す」と言われるほどでした。現在では捕鯨は行われていませんが、行事食として鯨料理を食べる風習が残されています。
その一つが「鯨の南蛮煮」です。赤身の鯨肉に、ごぼうやこんにゃく、にんじんなどの野菜を加え、味噌と砂糖で煮込んだ一品。
地方独自の工夫が凝らされ、鯨肉の特性を活かした深い味わいが特徴です。
鯨の南蛮煮の材料と調理方法
材料(1人分)
鯨肉(赤身): 40g
ごぼう: 15g
こんにゃく: 15g
にんじん: 15g
しょうが: 3g
米味噌: 12g
砂糖: 3g
サラダ油: 1g
だし汁(昆布・かつお節): 50g
白いりごま: 2.5g
七味唐辛子: 少々
調理手順
1:昆布とかつお節でだしを取り、ごぼうは酢水に漬け、こんにゃくは下茹でする。
2:鍋にサラダ油を熱し、しょうがと鯨肉を炒め、一旦取り出す。
3:野菜を炒め、だし汁を加えて煮る。
4:鯨肉を戻し、味噌と砂糖を加え、弱火で煮込む。
5:最後に白ごまを混ぜ、七味唐辛子を振って完成。
古式捕鯨で栄えた通地区では、鯨文化が現在も生活の中に息づいています。
鯨墓や位牌、戒名など、鯨を敬う文化が伝承されています。
また、食文化としても、肉だけでなく皮や内臓に至るまで、多様な調理方法で余すことなく利用されてきました。この地域ならではの鯨文化を通じて、持続可能な食生活の知恵が見えてきます。
まとめ
「鯨の南蛮煮」は、山口県を代表する郷土料理の一つで、鯨肉を使った伝統的な煮物です。江戸時代から明治時代にかけて、山口県沿岸部では盛んに鯨漁が行われ、捕鯨の集団である「鯨組」が栄えていました。鯨は肉だけでなく、その脂や骨粉まで無駄なく利用され、地域の生活に欠かせない食材となっていました。
「鯨の南蛮煮」の特徴は、赤身の鯨肉を使い、ごぼう、にんじん、こんにゃくなどの野菜と一緒に煮込むことです。調味料には米味噌、砂糖、そしてだし汁を使用し、風味豊かな味わいに仕上げます。また、七味唐辛子や白ごまを加えることで、辛みと香ばしさがアクセントとなり、鯨肉の独特の旨味を引き立てます。
この料理は、鯨肉の赤身部分を使用するだけでなく、皮や内臓まで利用されることが多いのが特徴です。これは、古くから捕鯨を生業としていた地域ならではの工夫で、鯨のあらゆる部位を無駄にせずに食べる文化が根付いているためです。現在では捕鯨が行われていない地域もありますが、鯨料理は大晦日や節分の行事食として、または地域のお祭りで食べられることが多く、鯨を敬う風習が続いています。
「鯨の南蛮煮」は、鯨肉の栄養を最大限に活かし、地域の歴史と文化が色濃く反映された一品であり、地元の人々にとっては誇り高い郷土料理となっています。