悠久の歴史を誇る京都では、宮廷料理や精進料理、懐石料理、さらには日常的な家庭料理など、独自の食文化が育まれてきました。
かつて山城、丹波、丹後の三地域に分けられていたこの土地は、自然や風土の違いによって各地で特色ある郷土料理が発展しました。
京都の郷土料理は、旬の野菜を活かしたものが多いのが特徴です。
四季折々の行事と結びついた料理には、京都特有の野菜を使った伝統的なメニューが豊富に存在します。
海から離れた土地である京都では、かつて海産物は乾物や塩漬けの形で取り入れられていました。
その中で、地元の野菜と組み合わせることで、独自の料理が生み出されました。「にしんなす」はその代表例の一つです。京都では食材の組み合わせを「出会い物」と呼び、季節の味を献立に上手に取り入れる工夫が昔から受け継がれています。
甘辛く煮込んだニシンとナスの組み合わせは、食材を余すことなく使い切る京都人の心を表しています。脂の乗ったニシンの煮汁で、淡白なナスを煮る調理法は、素材本来の味を最大限に引き出した伝統料理の一例です。
にしんなすについての材料と作り方
材料
身欠きニシン(2~3等分に切る):1本(約40g)
ナス(縦半分に切る):中2個
濃口しょうゆ:10g
砂糖(三温糖):2g
清酒:10g
水:適量
※ ニシンを戻す際に米ぬかを使用します。
調理手順
1:ニシンは米ぬかを加えた水(または米のとぎ汁)に一晩つけて戻す。
2:ナスはへたを取り、皮に斜めに切り込みを入れて水にさらし、アクを抜く。
3:戻したニシンを水洗いし、うろこやえらを取り除き、2~3切れに分ける。
4:鍋にニシンとひたひたの水、酒を入れて15分煮る。砂糖を加え、さらに15分煮る。最後にしょうゆを加え、味をなじませる。
5:煮汁を薄めてナスを煮込み、最後にニシンを戻して余熱で温め直す。
身欠きニシンは、かつて北前船によって北海道から運ばれてきました。当時の京都では、貴重なタンパク源として一年中親しまれており、ナスが旬を迎える夏には特に好まれました。
まとめ
「にしんなす」は、京都の伝統的な料理で、脂ののった身欠きニシンと旬のナスを組み合わせた一品です。
かつて京都は内陸部に位置していたため、新鮮な海産物を手に入れることが難しく、干物や塩漬けの魚を使った料理が主流でした。
その中で誕生した「にしんなす」は、保存が利く身欠きニシンを京都特有の知恵と工夫で調理した代表的な料理です。
身欠きニシンは、えらや内臓を取り除き、開いて中骨を抜いた後に天日で干したもので、京都には北前船によって運ばれてきました。
戻した身欠きニシンを甘辛く煮て、その煮汁で淡白なナスを炊き合わせることで、素材の旨味を引き立てながら調和のとれた味わいを生み出します。この料理には、食材を無駄にせず活用する京都人の精神が息づいています。
また、「にしんなす」は夏バテ予防にも適しており、特にナスが旬を迎える季節に親しまれてきました。現代でも京都の家庭や飲食店で愛され続けており、地元の食文化を象徴する一皿と言えるでしょう。