20世紀に入ると、生理周期や妊娠によって現れる鼻の症状については広く知られるようになりました。その中でも、妊娠中に見られる鼻粘膜のうっ血の原因は明確にはわからず、長い間議論が続いていました。しかし最近になって、妊娠中に見られる鼻粘膜のうっ血の原因が徐々に解明されてきました。
現在では、妊娠中に分娩の約6週間前から発症し、分娩後2週間以内に完全に回復する鼻粘膜のうっ血を「妊娠性鼻炎」と呼ぶようになりました。ただし、感染症やアレルギー性疾患によるものは除外されます。アレルギー性鼻炎の患者が妊娠すると、妊娠中にうっ血性鼻炎が現れやすく、症状が悪化することが多いです。妊婦に対する薬物の使用は、胎児への影響を考慮して慎重に行う必要があります。
特に妊娠初期の器官形成期(4ヶ月の初めまで)には、薬物の使用を控える方が安全とされています。どうしても薬物の使用が必要な場合は、局所用の薬剤(例:DSCG、鼻用遊離抑制薬、鼻用局所ステロイド薬など)を最小限に使用するのが良いでしょう。これらの薬剤については、胎児への毒性の報告はほとんどありません。
妊娠性鼻炎の原因と治療法
妊娠性鼻炎の原因としては、ホルモンの変化が主な要因とされていますが、その詳細はまだ不明な点が多いです。現在考えられている影響要因には、胎盤性成長ホルモンや喫煙、ハウスダストやダニなどへの感受性が含まれます。また、最近の研究では自律神経(交感神経・副交感神経)の働きや、好酸球などの常在菌の影響も指摘されています。
妊娠性鼻炎の治療には、根本的な治療法はまだ確立されていませんが、血管収縮点鼻薬や経口ステロイド薬、鼻腔拡張テープなどが使用されることがあります。しかし、血管収縮点鼻薬や経口ステロイド薬は妊娠中の使用が推奨されていません。そのため、一般的には鼻腔拡張テープを使った治療が行われます。
最近では、温熱療法も有効とされています。具体的には、43℃の水蒸気を10分程度鼻から吸入することで、アレルギー症状が改善し、特に鼻づまりが緩和されるとされています。自宅で専用の機器を使えば、自由に治療を行うことができるため、薬剤を使用せずに鼻の症状を改善できる点で、安全で有効な治療法となります。
妊婦の副鼻腔炎について
副鼻腔炎(蓄膿症)には、鼻水や鼻詰まり、顔の痛み、嗅覚の異常、頭重感、歯痛などの症状があります。特に頭痛や顔の痛みが強く、合併症を引き起こす可能性もあるため、注意が必要です。初期には鼻水や鼻詰まりが主な症状ですが、軽視できない病気です。
妊婦は副鼻腔炎にかかりやすいと言われています。これは、胎児に栄養を供給するために免疫力が低下しやすくなるためです。副鼻腔炎は風邪ウイルスが原因となることが多いですが、免疫力が低下すると風邪をひきやすくなります。また、以前に副鼻腔炎を経験した人は、妊娠中に再発する可能性が高いとも言われています。
妊娠中の副鼻腔炎の治療は慎重に行われます。基本的に胎児に影響を与える恐れがある抗生物質は処方されないため、局所療法が一般的です。具体的には、鼻腔の洗浄やネブライザーによる薬液の吸入が行われます。
妊娠5ヶ月以降であれば、医師によっては妊婦に安全とされる抗生物質や鎮痛剤が処方されることもありますが、必ず医師と相談することが重要です。また、副鼻腔炎にかかった場合は耳鼻科医に相談するのが適切です。産婦人科医に相談するのも良いですが、耳鼻科の専門医が適切な対応をしてくれる場合が多いです。耳鼻科で処方された薬については、産婦人科医にも伝えておくと良いでしょう。
妊婦に対しては副作用の少ない薬が使用されるため、副作用の少ない漢方薬を選ぶ医師もいます。ただし、体質や症状に合わせた処方が必要なので、自己判断で使用せず、専門医の指示に従うことが大切です。
また、薬に頼らない民間療法として、なた豆茶やドクダミ療法、レンコン管なども試されることがあります。なた豆に含まれるコンカナバリンAには免疫力を高める効果があるとされています。